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こうせつきょうほうずえ
巷説享保図絵・つづれ烏羽玉
林 不忘
Read 巷説享保図絵・つづれ烏羽玉 (こうせつきょうほうずえ) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 365,120 characters · 728 screens
帰って閑山に以後出入りかなわぬと申し伝えろ。不敵な奴じゃ」
文次はここを先途ともみ手をして、
「しかし、間違いでも難癖でもござりません、へえ。あのう、御当家に、お若い美しいお侍さまはいらっしゃいませんでしょうか」
文次も、眼だけは争われない。鋭い光を増してくる。
「なに? 若い美しい侍とな? 知らん、そんな者はおらん」
「へえ、ごもっともさまで、へえ」
と、殊勝げに文次が、ぴょこりとおじぎをして顔を上げたとき、いつのまに来たものか、青筋を立てて威猛高に肩を張っている老用人の背後、陽の届かない薄紫の室内に、煙のようにぼうっと、糸のように細長い人影が立っている。
唐流をななめに貼って貸家札
黒羽二重の着流しに白っぽい博多の帯を下目に結び、左手に大業物蝋色の鞘を、ひきめ下げ緒といっしょにむんずとつかんで、おどろいたことには、もうその、小蛇のかま首のようなおや指が、今にも鯉口を切ろうとしているのだ。
年齢のころは四十あまり、剃刀のような長い蒼白いあばた面、薄い一文字の口、鴨居をくぐりでもしそうな珍しい背高、これぞ饗庭亮三郎その人である。
口尻がぴくぴくと動いて、細い眼が、笑うように泣くようにじいっ――自分をみつめているのに気がつくと、文次は不吉なものにつかれたようにぞっとした。