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こうせつきょうほうずえ
巷説享保図絵・つづれ烏羽玉
林 不忘
Read 巷説享保図絵・つづれ烏羽玉 (こうせつきょうほうずえ) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 365,120 characters · 728 screens
「もう帰って来んでもよい。もちろん、帰ってこんだろうが、帰って来ないでも、わたしは困らぬというのだ。安心して、磯屋さんのいうとおり、またいっしょになれるものなら、いっしょになったがよかろう」
「いいえ。そんなそんな悲しいことをおっしゃらずに――お高は、きっと帰って参ります。おそくとも、必ず夕方までに帰って参ります」
そういって、お高は、磯五の待たしてあった駕籠に乗せられて、金剛寺坂の家を出たのだった。若松屋惣七は、つるりと顔をなでて、すわったまんまだった。若松屋惣七は、へんないきさつから、長いあいだの夫婦喧嘩に飛びこんだようなもので、要するに、自分には何の関係もないことなのだ。
何といっても、磯五とお高のあいだには、夫婦としての共通の理解も感情もあろう。それに、お高のこころは、事実、磯五に傾いている。自分はひっきょう用のない第三者なのだ。そう思うと、磯五の売った喧嘩を買って出る勇気もないほど、はやさびしい気もちに打ちのめされていたのかもしれない。
むっと、土のにおいのする陽ざしだ。
濃い影を地面におとして、お高の乗った駕籠は、上水とお槍組のなまこ塀のあいだを、水戸様のお屋敷のほうへ下って行った。