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こうせつきょうほうずえ
巷説享保図絵・つづれ烏羽玉
林 不忘
Read 巷説享保図絵・つづれ烏羽玉 (こうせつきょうほうずえ) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 365,120 characters · 728 screens
夕風が渡って、障子紙の糊のはげた部分を、さやさやと鳴らした。風には、雨のにおいがしていた。じっさい、そのときも大粒なやつが、ぽつりと一つ縁側をたたいて、かわいた板に吸われていっていた。暴風雨を予告するものがあった。
お高は、東兵衛という男のことを、聞いたことがあるのだ。その東兵衛という男は、もと藤沢で相当の宿屋をしていたのが、すっかり失敗して困っていたのを若松屋惣七が、例の侠気から助け出して、東海道の掛川の宿に、具足屋という宏壮な旅籠をひらかせて、脇本陣の株まで買ってやった男である。
もっとも、若松屋惣七が、ひとりで資金の全部を持ったわけではない。半分出したのだ。あとの半金は、東兵衛がじぶんでかきあつめて、みずから具足屋を経営すべく、具足屋東兵衛となって、掛川の宿へ移り住んだのだ。
具足屋は、もとの脇本陣の地所を買って、すっかり建て前をあたらしくしたものだ。木口をえらび、建て具や調度にも、若松屋惣七も東兵衛も、かなり贅沢をいった。ことに、庭を凝った。大きいことも大きいし、掛川の具足屋ほどの旅籠は、東海道すじの本陣脇本陣を通じてあんまりあるまいという、これは何も、若松屋惣七と東兵衛の自慢だけではなかったのだ。