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ひらがげんないとりものちょう

平賀源内捕物帳

久生 十蘭

Read 平賀源内捕物帳 (ひらがげんないとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,159 characters · 39 screens

Aozora Bunko

小瓦の上には、苔が蒼々。夏は飛蝗や蜻蛉の棲家になろう、その苔の上に落葉が落ち積んで、どす黒く腐っている。

さて、門の前まで来は来たものの、あまり凄じいようすで、門扉を押す気さえしない。

源内先生も、すこしゾクッとした顔で、恐るおそる喰い合せの悪い門扉の隙間から、内部を覗いていたが、とつぜん、

「おッ!」

と、つン抜けるような叫びを上げた。

「伝兵衛、あれを見ろ」

伝兵衛が覗いてみると、葎や真菰などが、わらわらに枯れ残った、荒れはてた広い庭の真中に、路考髷を結い、路考茶の着物に路考結び。前髪に源内櫛を挿した等身大の案山子が、生きた人間のようにすんなりと立っている。

庭の奥に、社殿造の、閉め込んだ構えの朽ち腐れた建物がある。屋根の棟に堅魚木などのせた、屋敷とも社ともつかぬ家の奥から、銀の鈴でも振るような微妙な音がしたかと思うと、櫺子を押上げて現れて来た、年のころ四十ばかりの病み窶れた女。

どこもここも削ぎ取ったようになって、この身体に血が通っているのか、蝋石色に冴え返り、手足は糸のように痩せているのに、眼ばかりは火がついたように逞ましく光っている。引き結んだ唇は朱の刺青をしたかと思われるほど赤く生々しい。