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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
Read 放浪記(初出) (ほうろうき(しょしゅつ)) by 林 芙美子 (はやしふみこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 103,349 characters · 207 screens
十二月×日
風が鳴る白い空だ
冬のステキに冷い海だ
狂人だってキリキリ舞いをして
目のさめそうな大海原だ
四国まで一本筋の航路だ
毛布が二十銭お菓子が十銭
三等客室はくたばりかけたどじょう鍋のように
ものすごいフットウだ
しぶきだ雨のようなしぶきだ
みはるかす白い空を眺め
十一銭在中の財布を握っていた。
あゝバットでも吸いたい
オオ! と叫んでも
風が吹き消して行くよ
白い大空に
私に酢を呑ませた男の顔が
あんなに大きく、あんなに大きく
あゝやっぱり淋しい一人旅だ!
腹の底をゆするような、ボオウ! ボオウ! と鳴る蒸汽の音に、鉛色によどんだ小さな渦巻が幾つか海のあなたに、一ツ一ツ消えて唸りをふくんだ冷い十二月の風が、乱れた私の銀杏返しの鬢を、ペッシャンと頬っぺたにくっつけるように吹いてゆく。
八ツ口に両手を入れて、じっと自分の乳房をおさえていると、冷い乳首の感触が、わけもなく甘っぽく涙をさそってくる。
――あゝ、何もかにもに負けてしまった!
東京を遠く離れて、青い海の上をつっぱしっていると、色々に交渉のあった男や女の顔が、一ツ一ツ白い雲の間からもれもれと覗いて来る。
あんまり昨日の空が青かったので、久し振りに、故里が恋しく、私は無理矢理に汽車に乗ってしまった。