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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
Read 放浪記(初出) (ほうろうき(しょしゅつ)) by 林 芙美子 (はやしふみこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 103,349 characters · 207 screens
「こんなに雪が降っても出掛ける?」
「うん。」
「じゃあ私も時事新聞の白木さんに会ってこよう、童話がいってるから。」
「もらえたら、熱いものしといて、あっちこっち行って見るから、私はおそくなるよ。」
始めて、隣りの六畳間の古着屋さん夫婦にもあいさつをする。
鳶の頭をしていると云う、下のお上さんの旦那にも会う。
皆、歯ぎれがよくて下町人らしい。
「前は道路へ面していたんですよ、でも火事があって、こんなとこへ引っこんじゃって……前はお妾さん、露路のつきあたりは清元でこれは男の師匠でしてね、やかましいには、やかましゅうござんすがね……。」
私はおはぐろで歯をそめているお上さんを珍らしく見た。
「お妾さんか、道理で一寸見たけどいゝ女だったよ。」
「でも下の叔母さんが、あんたの事を、此近所には一寸居ない、いゝ娘ですってさ。」
二人は同じような銀杏返しをならべて雪の町へ出た。
雪はまるで、気の抜けた泡のように、目も鼻もおおい隠そうとする程、元気に降っていた。
「金もうけは辛いね。」
ドンドン降ってくれ、私が埋まる程、私はえこじに、傘をクルクルまわして歩いた。
どの窓にも灯のついている八重洲の通りは、紫や、紅のコートを着た、務めする女の人達が、やっぱり雪にさからっている。