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こういうきもち
斯ういう気持
宮本 百合子
Read 斯ういう気持 (こういうきもち) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,379 characters · 9 screens
「――春になると埃っぽいな――今日風呂が立つかい」
「そうね、どうしようかと思ってるのよ、少し風が強いから」
「じゃあ一寸行って来よう」
「立ててもよくてよ」
「行って来る方が雑作ない」
愛が風呂場で石鹸箱をタウルに包んで居る間に、禎一は二階へ蟇口をとりに登った。彼は軈て、ドタドタ勢よく階子をかけ降りざま、玄関に出た。
「小銭がなあいよ」
愛は、
「偉い元気!」
と笑い乍ら、茶箪笥の横にあった筈の自分の銀貨入れをみつけた。覚え違いと見え、二三枚畳んで置いてあった新聞の間にも見当らない。下駄を穿き、
「まだかい」
とせき立てる。愛は戸棚の、小さい箱根細工の箱から、銀貨、白銅とりまぜて良人の拡げた掌の上にチリン、チリンと一つずつ落した。
「これがお風呂。これが三助。――これが――お土産」
禎一は、いい気持そうに髪の毛をしめらせ、程なく帰って来た。彼は、たっぷりした奇麗な桃を一束買って来た。
「まあ、いい花! まるで春らしい形恰ねこの桃――でも、お金足りたの? あれっぽっちで」
「十銭、花屋の爺さんに借金して来たのさ、夕方でも出たら忘れずに返してやっとくれ」
花好きの愛は、其を大きな赤絵の壺にさして椽側の籐卓子に飾った。