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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
Read 新・水滸伝 (しん・すいこでん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 684,899 characters · 1374 screens
そして、逃げる彼らの背へ向って、
「阿呆。親切ごかしの、屁ッたくれ商人め。野たれ死にでもしてしまえ」
と悪たい吐いた。
さっきから見物していた兵たちは、笑いも出ずに、ただ生唾をのんでいた。食い物の恨みは元々深刻なもの。いわんや、焦くがごとき暑熱に渇いている鼻先で、舌つづみを打たれたのでは堪るまい。――しいんと、陰気な沈黙におちて、彼方に腰かけている楊志の背を、いとも恨めしげに見ていたが、ついにもう我慢ならじと、声をそろえて、謝執事に訴えてきた。
「執事さん。ご恩にきますぜ。ひとつ、楊輸送使へお縋りなすっておくんなさいな。――これからもまだ、山坂ですし、峠まで行ったところで、飲み水などありッこはねえ。どうか、あの残りの片桶をわれわれどもが買って飲むことを、ゆるすと、いわせてくださいませんか。もう腹の虫がグウグウ鳴って、おさまりがつきません」
執事の謝も、内心、意欲はおなじものだった。しかし、おいそれとは、同調顔もできないので、いかにも、彼らの哀訴を持て余したかのごとく、歩を楊志の前へ移してきた。そして、彼らの代弁にこれ努めた。厭なら、見て見ぬ振りしていてくれと、いわぬばかりな口吻である。