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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
Read 新・水滸伝 (しん・すいこでん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 684,899 characters · 1374 screens
言い捨てると、側の異彩な若者もともに、さっさと彼方へ行ってしまった。
むしろ、ぽかんとしたのは武松である。そして獄卒に曳かれて、以前の石壁隧道の監房前を通りかかると、
「おや、あの野郎、平チャラな面して帰って来たぜ」
「おい、どうしたい新入り」
などと同囚の仲間が寄りたかって彼に委細を訊きただした。そしてわけを聞き知ると、妙にみんなチーンと沈んで、武松の姿を、影の薄い人間みたいに憐れがッた。
「……じゃあなにかい。おめえはここの管営さん宛に、誰か偉い人の添え状を貰って来たわけでもないんだね」
「むむ、そんな物あ貰ってねえよ」
「そしてまた、差撥にも監察にも、そっと、袖の下ッていうこともしなかったんだろ」
「知れたこッた。嫌えだよ、そんなことあ」
「やれやれ、それじゃあ、いよいよ晩にゃ、白飯のご馳走に決まったね」
「なんだい、白飯の馳走たあ?」
「仏さまのお好きな物だ。そいつをお椀に山盛り一杯ゴチになって、あとは土牢行きの逆さ吊りで、あしたの朝は、土の中で蟻と仲よしになるんだよ」
「縁喜でもねえ」
武松は苦笑した。
「ヘンなことを皆して言やがる。ははン、それで俺一人は今夜から独房入りか?」