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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 186,659 characters · 372 screens
重政には、骨がある」
「といっても、蟹江にある御老母をどうするおつもりか」
「……や、やかましいッ」
と、重政は、涙をふって、泣き顔を、ひっつらせた。
「き、貴さま如き、義も恩も知らぬ人間から、武門の難に立った母と子の心がけを、講釈してもらおうとは思わん。人非人めが、恥を知れッ」
それきり顔をひっこめてしまった。
すでに、山口重政の所へは、きのう、萱生にある主人の佐久間甚九郎から、
(海上に、おびただしい炊煙や兵船の影が見える。思うに、沿海をうかがう敵の水軍かも知れぬ。油断すな)
という密報が来ていたし、蟹江の様子も変だったので、充分、覚悟していたところだった。
午すぎ、また、川向うの堤のうえに、千賀新左衛門という蟹江の武者が来て、重政を呼び出し、吉田小助と同じように、老母の生命や、報酬の利をもって、かれを説いた。
「また来たか。うるさい、虫けらども」
重政は、鉄砲でそれに答えた。千賀新左は、馬を撃たれたため、徒歩で逃げ帰った。
こういう中で、重政にとり、うれしいこともあった。
それは、蟹江の城にいた奥山次右衛門という、かれの同僚で、次右衛門は、主人から預かっている蟹江城が敵に売られ、滝川勢が入って来たので、夜中ひそかに、妻子をつれて、この大野城へ、逃げ走って来たのである。