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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 186,659 characters · 372 screens

Aozora Bunko

家康は、本丸の冷ンやりした一室に、大きな火桶と脇息をわきに置き、例の猫背を、よけいに丸く着ぶくれて、黙然と、明け方から、坐り通した。そして、次々の情報にも、さして、感情を示さず、時々、

「……身の不徳。身の不徳」

とばかり、つぶやいていた。

いったい、この人の腹の中は、近親者でも、側近でも、実に、読みとり難いとみないっている。――家康自身は、決して、技巧で、人にそう見せているわけでもないのだが。

いかに、細心をもってしても、技巧が、完全に、そう人を信じさせ得るものではない。家康のもうろう性は、天の成せる本質である。家康が意識してやっている自己演出ではないのである。

その証拠には、かれにも、凡人と同じ感情はあり、時によって、感情も大いに動かす。――しかし、その動かす感情が、あらわに、外に出ないため、人は往々、見のがしているのである。“何事にまれ、物に動ぜぬ御方”と見て、驚嘆したり、怪しんだりする。

その点、秀吉は、真反対な性格である。大いに驚き、大いによろこび、大いに悲しみ、大いに怒る。すべて秀吉は感情の波を皮膚の下には打たない。明けっ放しに表情する。