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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 186,659 characters · 372 screens
が、信雄の神経は、そういう反応には、至って敏感でない。
「――こんど、岡崎へ立ち寄られたら、秀吉が左様に申して嘆じおったと、徳川どのへ伝えて欲しい。そして、徳川どのは、何とお考えあるやという殿下のおことばでした。ちょうど、いまお訊ねのことを、反問しておられるようなものですな。……はははは」
と、独りで、好人物らしい笑い方をした。
信雄という人物ほど、薬のよく利く人はない。
家康は、この好人物の、調法なことを知っている。この人を、自家薬籠中のものにして、秀吉に当らせたり、世上へ見せる偶像として、利用した覚えがあるからである。
ところが、今は。
この調法者は、秀吉の掌の中にある。そして秀吉は、こんどは逆に、自分を責める責め道具に、つかって来ている。
(因果は巡る)……と、おかしくもなってくるし、(これは、苦手)と、時々、信雄の人の好さから来る無恥と無反応に、処置のない惧れも感じさせられた。
憎めない――という人間ほど始末のわるいものはない。殊に、身分があって、気位も高いくせに、廉恥と来ては、家康も、手の施しようがない。智や、手や、常識などは、ある方が、負けである。