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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens

Aozora Bunko

醤油くさい煮売りや濁酒のにおいのうえに、夕月が仰がれた。

「おくたびれでございましょう」

「いや、おもしろかった」

「黄昏れました。はやお帰りあそばしては」

「む、む」

見まわしていたが、

「あれは、何か」

と、急にまた足を向け出した。そして空地の一隅に黒々かたまっている多勢のうしろに佇んだ。

見ると、ひとりの法師が、石のうえに立って、何か群集に演舌している。

ほかに三人の旅僧がいて、これは三方に分れ立ち、睨むように、まわりの人がきを見張っていた。

演者の法師は、熱弁をふるって群集にいう。

「物が高値くなるばかり、法令はひどくやかましい。働き手は、戦いのたびに、軍夫にかり出される。喰えない。やりきれない。これがおまえ方のほんとうな相だろう。もっともだ。この市にしたところで、斎藤道三様や龍興様の時代には、こんなものではなかった。もっと繁昌だった。白粉の女も出るし、唄い女もあるくし、夜明けまで酔っぱらいの声がした。それが今では、みんな御法度、商いまで宵かぎりでぴたりと木戸を閉めてしまう」

法師は唇を舐めあげて、聴衆の上をねめまわしている。巧みに領民の弱点をついて、織田家の施政を暗に誹ろうとする口うらが窺える。