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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens

Aozora Bunko

総軍約三万は――かれの領する甲斐、信濃、駿河、遠州の北部、三河東部、上野の西部、飛騨の一部、越中の南にまでわたる、およそ百三十万石の地から徴せられた将兵であった。

「守るに如くはない」

「織田どのの援軍がいたるまでは」

一面、浜松城のうちには、こういう守勢論もあった。

徳川家の兵力は、その全土のものをあげても、一万四千に足りないのである。

武田方の半分だ。むりもなかったが、若い家康は、

「なんの。――織田どのの援軍などは待つほどのこともない」

と、出軍を令した。

家臣はみな、この際、当然な義務として――過ぐる姉川の役に徳川家が助力した義理からでも――織田から大兵の来援があるものと期待していた。

その空気に対して、家康は努めて、あてにしない顔をしていた。今こそ、危急存亡の時であることを覚悟させると共に、真に恃むものは自力以外にないことを悟らせようとした。

「――退くも滅亡、進むも滅亡ならば、突きすすんで、乾坤一擲のなかから、もののふの名と、死に華を、両手につかみ取って死のうではないか」

と、かれは家臣たちへ静かにいうのである。

この君は幼少から実にみじめな苦労にもまれながら、こせつかず才走らず、どことなくぬうと成人されている。