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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens

Aozora Bunko

「なぜか」

「べつ儀もございませんが」

「では、城内に泊ってはどうか。久々の対面」

「それほどごぶさたとも存じません」

「はりあいのない男。信長のそばは窮屈か」

「いえ、実は」

「実は、なんじゃ」

「その……城下の旅舎に、連れを待たせておりますので、それが淋しかろうし、こよいは、戻ると約束してまいりましたので」

「連れとは、女子か」

信長が呆れていう。信玄の死を聞いて囚われている彼の感傷と、藤吉郎の心配とは、これほどな距離があった。

「つかれもしたであろう。こよいは旅舎へ退るがよいが、明日は連れの者をも伴れて、登城いたせよ」

――帰りがけに、信長からいわれたことばである。

藤吉郎は、途で、

「釘をお打ちになったな」

叱られたような気もしたが、また粋な御主君とも思う。

釘のあたまが気にならぬよう、ほどよく美術的な釘隠しで包んでいる。

で、あくる日、於ゆうを連れて登城するにも、そう恐縮には及ばなかった。

きのうと違う書院で、信長もきょうは酒気をふくまず、藤吉郎と於ゆうをならべて、上座から見た。

「竹中半兵衛の妹とか聞いていたが、左様か」

親しげである。

於ゆうは、はじめての御見、それに藤吉郎となので、消えも入りたげに、面をふせていたが、