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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens
義景の最期は、浅ましいものだった。
信長の兵が、やがて亥山を囲んだので、彼は、東雲寺にも居たたまれず、山田の六坊へ奔り、そこの堅松寺に潜伏した。
「もはや遁れるすべもござりますまい。あなた様は越前三十七門の御惣領、たとえ降伏して擒人となられても、信長が、お命を助けおくわけはありません。さる生き恥をさらさんよりは……」
と、一族の魚住景賢と朝倉景雅のふたりが迫って、とうとう義景に対して、自決をすすめるまでの窮地となった。
もう堅松寺を遠巻きにして、海鳴りのような兵馬の音が、刻々、耳ぢかく聞えていたのである。
「……だめか」
と、一言つぶやいて、義景はまッ蒼な慄えを顔に走らせたが、自分に死をすすめる二人の親族も共に死ぬものと思って、山門の方でバリバリッという凄まじい震動のきこえた刹那、急に屠腹して、俯伏した。
「お。――お果てなされた」
それを見ると、景賢、景雅のふたりは、あわてて立ち去ろうとした。
騙したのである。
しかもこの悪臣の二名は、それより前に信長へ降伏を申し入れ、義景のありかへ敵を導いていた者だった。
「おのれッ、どこへ去る?」
と、近習の鳥居某、加藤景政、小姓の高橋甚三郎などが、怒り立って、ふたりを本堂の外へと追いかけたが、時すでに遅しであった。