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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens

Aozora Bunko

と、唾しながら、彼方の沢を、信長に従いて縫ってゆく藤吉郎の影を見送っていた。

「われわれに、何の目的も告げず……。諮らいもせずに」

「第一、危険至極ではないか。いくら白昼でも、ひろい山地には、敵の忍びもいる。もし遠くから狙撃でもされたらどうするか」

「殿も殿。ちと……」

「いや。木下がいかん。多勢してお附添いしては、眼につくなどと、殿に阿って」

勝家や信盛以外の幕将たちも、決して快くなかった。

いずれどこか、山の高所へお供して、藤吉郎が例の智弁で、なにか作戦上の献策でもするつもりだろうとは察しられたが――そもそもそのこと自体が不快でならなかった。その不快は、

「われわれ帷幕の謀将を、無視しておる」

と、いうところにあるらしい。

そういう人間の機微は分らないのか、無関心なのか、藤吉郎はまるで遊山にでもゆくような笑い声を、時々、山あいの静寂に発しながら、信長の先頭に立ってゆく。

彼の郎党と信長の従者と、あわせてわずか二、三十人の小隊でしかない。

「汗ばみますな、山を登ると。――殿、お手を引きましょうか」

「たわけたことを」

「もうわずかです」

「登り足らんな。もっと高い山はないか」