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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens
三郎兵衛の降伏を知ると、苅安の城も、長比城も、みな血を見ずに落城した。――藤吉郎はそこで長浜まで軍をすすめ、於ゆうはそこから岐阜へ帰して、兵馬の装備を革めると、主君の信長のいる前線の地、姉川へ、
「この大戦に洩れては」
と、急ぎに急いで、昨日、ここに着陣、望みどおり信長の本軍と合したわけだった。
姉川の水は三尺、その広い河幅も、脛をもって渉ることができるが、その清冽は、夏なお身を切るように冷たくて、水源の東浅井の谿谷を思わせる。
元亀元年、六月二十八日、まだ夜の明けないうちであった。
信長の総軍二万三千。
それに徳川勢の約六千。
龍ヶ鼻から進んで、姉川の岸に備え立てた。
前夜。――夜半頃から。
敵の浅井、朝倉の聯合軍一万八千の兵も、徐々と、大寄山から行動を起して、姉川の左岸に当る野村、三田村あたりの民家を楯に、戦機を窺っていた。
瀬の水音ばかり、夜はまだ明けない。
「康政」
榊原康政は、暗い水際から、
「はッ」
と、主君家康のすがたを暁闇の岸にふりかえった。
「ひしひしと、敵は、対岸のすぐ水際まで襲せているな」
「霧で――よう分りませぬが、馬のいななきが、微かに」