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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens
「――あッ、敵がッ」
誰か、兵の中で、どなりかけると直ぐ、林と河原の境に出て佇んでいた家康を中心とする幕僚たちが、
「撃つな!」
と、銃隊へ手を振った。
「撃ってはならんぞ」
他の将が、つづいていう。
対岸の正面よりやや下流手の岸から、一隊の敵が、騎馬徒歩をまぜておよそ千二、三百、一陣になって、河を斜めに、駈け渉りだした。
足もとから立つしぶきに、真白な疾風が渉ってゆくようだった。――恐るべきその浅井方の先鋒は、織田方の先鋒も、第二陣も三陣も無視して、一挙に、信長の中軍を衝こうとする意思らしく思われた。
「あッ、磯野丹波」
「丹波守が手勢」
家康のまわりで、家康の旗下たちは、唾をのみながら云い合った。浅井長政の下に、浅井家が誇りとする磯野丹波守という好敵手のあることは、夙に武将の間に聞えていた。――その旗じるしを今、颯々と、水けむりの中に見たからである。
ダ、ダ、ダ、ダッ
敵の掩護か、味方の銃隊か。いや両岸から同時に撃ち出したといっていい。水に谺して、耳も聾するばかりだった。
雲は裂け、六月の青空は、肌をあらわした。――と、見るうちに、織田軍の二番、坂井右近の人数、三番備えの池田勝三郎信輝の手勢が、