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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens
あげる諸声のうちにこもっている。
「この辺でお待ち申すのか」
秀吉は促されて駒を降りた。松並木の見通せる城下口の道の辺である。そこに仮の休み茶屋が設けられていた。
「まだお見えなさらぬか」
彼はそこに憩いながら床几に腰をすえているあいだも、いく度となく軒先へ出ては、並木道を眺めやっていた。
やがて午近く――彼方から一列の人馬や駕籠が見えて来た。陽は急に輝かしく、蝶の影のほか舞うものは塵もなかった。
「母上だな。母者人だな。……あの、前に参るお駕籠が」
伸びあがりつつ秀吉は待ちもうける。左右の家臣に何かいっている顔つきなど、まるで他愛ない容子だった。でも慎んでいるのか、寧子のことはそう口に出さなかった。
「――大儀ッ、大儀」
彼が大声を発しながら足を前に踏み出したときは、行列は仮の茶屋のまえに停まり、先駆の蜂須賀彦右衛門が駒を降りて、秀吉のほうへ一礼をしていた。
その彦右衛門以下、大勢の供の者に、秀吉は大声で、道中の労をねぎらったのである。そして自分はすぐ、二つの塗駕籠の側へすすみ、
「寧子、元気か」
と、まず妻へよびかけ、彼女のニコとほほ笑む顔を、久しぶりに一目見ると、すぐ老母の駕籠わきへ寄って、ひざまずいていた。