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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens
と、ばかり肯く色もない。
和田惟政は、また、
「われわれども、死を賭して、殿軍は仕りますが、いかんせん、渡船、荷舟、田舟にいたるまで、船は戦いの前に、敵に攫われ、また焼き捨てられて、この南中島から対う岸へお越え遊ばすには、筏を組まねば相成りません。――せめて、夜半頃までお延ばしあって」
それをも、信長は退けて、
「徒歩の兵は、筏で渡れ。馬を持つ者はわれにすぐ続け。――オオ、幼年の頃、清洲の庄内川に出て、水馬に遊び暮したことが、今ぞ、思いがけなく役に立った」
信長はやがて、馬上となると、中津川の流れへ、駒を乗り入れた。
が――彼一人ではなかった。
彼は、もう一名の大将の駒の鞍つぼへ手をかけて、引き寄せ引き寄せ、水路を導いていた。
将軍家義昭である。
「あなたも」
と、信長は、共に彼を伴れて引き上げの途についたのだった。義昭は、水馬の心得がないので、満々たる大河へ駒が泳ぎ出ると、
「あぶないッ」
思わず叫んだ。
そして、駒のたてがみに、しがみつこうとするので、
「馬の平首に縋りたもうな。鞍の上であがき給うな。馬を疲れさせぬよう、お楽にあれ。――信長がついておれば、大船に乗られた気で」