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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,320 characters · 398 screens
「おさらば」
「いざ」
呼び交わし、さけび交わし、五十余名の女子たちは、撩乱、野分に吹き荒らさるるお花畑の花のように、或いは横ざまに、或いは俯向けに、或いは、相抱いて刺し交えに、悉く自刃してしまった。
この中に、あわれなのは、乳のみ児や、まだ母の膝を離れない幼児の泣き声だった。土屋惣蔵は、そうした子を持つ母ばかり四人ほどを、遮二無二、馬の背へ押しあげて、鞍へ縛しつけ、
「あなた方は、ここを落ちても、不忠ではない。せめてお命を保ったら、子を育てて儚い故主の御一門の御供養なとなされるがよい」
と、子供と共においおいと泣く母親を叱りつけて、それらの者を乗せた馬の三頭を、槍の柄でびしびし撲った。
馬は驚いて、母子の泣き声をのせたまま、向う見ずに駈け去ってゆく。――土屋惣蔵は、弟たちを顧みて、
「さあ、いいぞ」
といった。
そのときもう山の上へ上って来た織田方の滝川左近、篠岡平右衛門などの部下の顔はつい先の方に見えていた。
柵の際で、勝頼父子は、まっ先に敵兵の目がけるところとなって取り囲まれている。その側へ、加勢に走ろうとすると、味方の跡部尾張守が、反対な方へ逃げ腰で駈けてゆく。