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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,320 characters · 398 screens
「はッ。はい……」
光秀の面色は、その酔も、きんか頭の額の照りまでも、さっと褪せて、土のように変じていた。
「座を退れ」
信長の扇は、彼の頸すじから離れたが廻廊を指して、なお剣の如く見えた。
「何事か存じませぬが、御けしきを損い、光秀、恐懼身のおき場も弁えませぬ。どこが悪いと、お叱りくださいましょう。この場にて、お叱りくださるも厭いませぬ」
詫び入りながらも、彼は、平伏したまま、身を辷らせて、廻廊の広縁へさがった。
信長も、そこへ出た。
どうなることかと、満堂の人々は酔をさまし、口腔の乾く思いをじっと抱いていた。
――どたっと、そこの板の間に大きなひびきがしたので、わざと、気のどくな光秀のすがたから眼をそらしていた諸将も、はっとして、室内からみな振り向いた。
扇は、信長のうしろへ、投げすてられてある。
見ると、信長は。
こんどは手ずから光秀の襟がみをつかんでおられる。そして何かいわんとする光秀にその余裕を与えず、ずずずと圧して、廻廊の欄干まで押し詰め、もがく頭を、ごつごつ欄干に小突いていた。
「――なんというた。日向。たった今、なんというたか。――われら、骨折りたる効あって、この甲州に織田家の兵馬が充満ちて見ゆるは、まことにめでたい日であるとな。