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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,320 characters · 398 screens
こんどの甲州入りには、徳川家も北条家も、ともに兵を出して、信長を扶けることになっていたが、北条勢の働いたのは、この大宮近傍から裾野の寒村あたりを焼き払っただけで、さして重要な所には少しも、戦果を挙げていないのである。要するに、真実を示していない。そして献上物や口先だけで、信長の歓心を取り結ぼうとしたのだった。
が、そんな辞令や尋常な形式でごまかされる信長ではない。北条家からの献上の馬匹を、
(気に入らぬ)
と突っ返したのは、すでに無言の表示だった。
今頃は定めし北条氏政も内心安からぬものを抱いていよう。信長の近習たちは、こんどの経過と、信長の口吻から見て、そんな想像を持つのだった。
「夜も更けました。それに日ごと、山坂の御旅、おつかれにございましょう。いずれまた明朝」
家康は、頃をはかって、退席しかけた。すると、信長は、蘭丸に告げて、
「申しつけておいた品々を、徳川殿へ披露申せ」
と、いった。
蘭丸から目録をわたした。信長の嘉賞をあらわした礼物の品である。
一 御脇差吉光之作
一 御長刀作一文字
一 御馬黒ぶち
家康は篤く礼をのべて退った。名馬黒ぶちは、信長が常に離さず伴れている愛馬である。