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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,320 characters · 398 screens

Aozora Bunko

兄のことばによると、

「熊太郎の伴れて来た客のひとりは、きっと黒田官兵衛どのだろう」

とのことに、彼女もすくなからず驚いた。去年から伊丹城の中に囚われて監禁されているとか、荒木の同類になって立て籠ったとか、いろいろ沙汰されている問題の人だからである。

公のことについては、まして機密な軍事にかかわる問題などは、日頃から家人にも一切何も語らない半兵衛であるので、おゆうにしても、栗原熊太郎が、去年以来、いったい何処へ何しに行って、長い間ここへ帰って来ないでいたか――その目的などもまるで知らないのであった。

「ゆう。わしの胴服を」

病間では、半兵衛が起き出て、衣服をかえていた。

案じられるが――おゆうは兄の性格として、どんなに病の篤いときでも、ひとたび床を出て客に接しるには、いつもそうある習慣を知っているので、

「はい」

と、胴服をそのうしろから羽織らせた。

病髪を撫で、口を嗽ぎ終えて、半兵衛が小書院へ姿を運んで行くと、家来の熊太郎と他の客ふたりは、すでに席について、物静かに主を待っていた。

「おうッ」

ひとりの客がすぐいえば、半兵衛も情感のこもった声で、

「やあ、御無事で」