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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,903 characters · 400 screens

Aozora Bunko

――けれど、主人側の余りな緊張が、時によって、却って客をはらはらさせるような場合は、世上一般の饗宴にもまま例のあることである。

その日、客の家康は、安土山上の総見寺の舞楽殿で、猿楽能を見物した。桟敷には、近衛殿もおられたし、主人役の信長のほか、穴山梅雪、長雲、友閑、夕菴、長安などの年寄衆、小姓衆、そのほか徳川家の家臣もいながれて陪観していた。

梅若太夫が、大織冠、田歌の二番を舞った。出来栄えよく、主客はやんやと褒め囃した。

で、梅若太夫へかさねて、

「お能を御覧に入れよ」

と、命が下った。

ところが、どうしたのか、能のほうは、不出来であった。謡のことばを忘れて、二、三度もつかえたりした。

やや興をそがれたが、そのあとをすぐ幸若八郎九郎太夫が、和田のさかもりを舞って、鮮やかに舞い納めたので、主賓の家康始め、一同みな興じ入って、梅若太夫の些細な落度などは、たれも心にとめていなかった。

殊に家康は、主のこの馳走に、心からの歓びを示すことに怠りなく、自分の家臣を楽屋へ使いに立てて、

「いずれも結構に拝見した。わけて幸若の舞は、もう一さし見たいほどである」

と讃辞を言伝けさせ、梅若、幸若のふたりへ、金子百両、帷子五十を祝儀として贈りとどけた。