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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,903 characters · 400 screens

Aozora Bunko

いかが致したらよろしいものでございましょうか」

と、光春の顔いろを惧れながらいった。

「なに。また来たのか」

かろく舌打ちをして、

「先頃も横川の和尚へは、光春みずから返書を与えて、嘆願の趣は、到底、相かなわぬ儀なれば、無用にいたせと、篤と答えてつかわしたのに、その後も、二度三度と、執こく書面を持たせて城門まで参るそうな。聞きわけのない法師ではある。――構えて、取り上げるな。何といおうが、突っ返して、追っ払うがよい」

と、いった。

取次の侍は、

「はい。はい」

とのみで、自分が叱られたように、倉皇と、書面も願書も、そのまま手に持って退がって行った。

すると、光秀はすぐその後で、こう訊いた。

「横川の和尚とは、叡山の亮信阿闍梨のことではないか」

「さようでございます」

「すぐる歳、元亀二年の秋、叡山焼打の折には、この光秀も一手の先鋒を命ぜられ、山上の根本中堂、山王二十一社、そのほかの霊社仏塔、悉くを焔となし、刃向う僧兵のみか、稚子上人、凡下高僧、老幼男女のさべつなく、これを斬って、火に投じ、ふたたびこの深山には、人はおろか、草木の芽も出まじと思わるるほど、掃滅殺戮のかぎりを為し尽したが……もういつしかそこには、また生き残りの法師たちが帰って来て、生きる道を求めておるとみゆるの」