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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
降りを変えたので、道を巡って来るにつれ、東方の平地が展望されて来た。
秀吉はふと足を止めて、
「あの煙は何か」
と、木下日向守を顧た。
「高時川の部落が焼けておるのでございましょう」
「その彼方の煙は」
「新堂かと思われまする」
「もそっと、右の方へ寄って、なお旺んな煙の見ゆるのは、どの辺か」
「今市の町と、狐塚辺に当るかと存じられますが」
「柴田め。……焼きおったの」
と、秀吉は東浅井の半ばにもわたる辺土のいちめんな濛煙を見て、ふと唇をかむかの如く呟いて、
「見よ、やがてこの火が、柳ヶ瀬を越え、北ノ庄まで焼き払うであろうことを」
急に早足になった。降りなので扈従はみな追いかける程だった。秀吉の胸には何か、勃然たる怒りが発したものらしい。
彼が主力をひっ提げてこれへ来るまでの間に、柴田勢が放火したり、田畑や穀倉などを蹂躪した地域はかなりの広さにわたっている。すでに詳報も聞いていたが、その被害をまざまざと眼に見ては、激怒に衝かれざるを得ない。
しかし、彼が感情に駆られざるを得ないまでに、町、村落、農田、山林までを荒し廻った柴田勢の底意は――要するに秀吉のその通りな気持を誘致しているものであって、いわゆる“激を誘って備えに撃つ”の策たることは明らかである。