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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens

Aozora Bunko

日頃から、叔父の寵に狎れぬいているこの甥は、すぐその気持を読んで、組しやすしと、なおこう主張するのだった。

「玄蕃、若年ですが――中入りの危険な戦法であるぐらいなことは、万々、承知しております。それゆえ、自身、難に当らんと申すわけで、ただ策を恃み、功に逸る次第ではありませぬ」

それでも、柴田勝家は、容易に「うむ」といわなかった。依然、熟慮の体である。

玄蕃允は、強請みあぐねた気味で、ふと将監を顧み、

「いまの図面を、まいちど見せてくれい」

と求めた。そして床几に倚ったまま、ふたたびそれを繰り拡げ、片手を頬に当てて、彼もまた、いつまでも、黙りこんでいた。

かくあること半刻に及んだ。

勝家は、甥が、熱意を燃やして云っている間は、危ぶんでいたが、口をとじて、戦図に静思している体を見ると、俄かに、頼もしさを覚えて来たものか、

「よかろう」

遂に、自身の分別に断を下して、玄蕃允の方へこういった。

「――抜かるなよ、玄蕃。こよいの中入り、そちに命じる!」

「えっ」

玄蕃允は、顔を上げ、同時に床几から突っ立って、

「では、それがしに、おまかせ下さいますか」

狂喜した。礼を慇懃にした。