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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens

Aozora Bunko

たいへんだっ」

下でも、驚いた。

「何だ! 何が見えたのか」

「…………」

上の影は、凝然、自失しているように見える。次々に、下の者も登って行った。そして皆、夜風の空に、肌をすくめた。

そこに立てば、余吾、琵琶はいうに及ばず、湖に沿うて南へ一すじの北国街道も、伊吹の裾まで一望される。

――見れば。夜目なので定かでないが、長浜あたりと覚しき地点をつらぬいて、ここの麓に近い木之本まで、一条の光焔が河をなしているではないか。松明、篝の隙間なき流れだ。炎々、点々、眼のとどく限り火流光輪である。

「これは!」

と、眼を奪われた一瞬から醒めると、

「それっ、早くっ」

哨兵たちは、辷り降りて、転ぶが如く、部隊陣地へ知らせに駈けた。

明日は――

と、胸に期すところ深かったので、玄蕃允は早くから帷幕に寝ていた。

兵も寝ていた。

馬も眠りおちていた。

亥の刻(午後十時)に近い。

玄蕃允はむくと身を擡げた。――なにかが、ふと鋭感な彼の緊張をゆり起したものらしく、

「対馬っ」

と、呼んだ。

同じ帷中に、手枕で眠っていた大崎対馬守が、刎ね起きたとき、玄蕃允もまた立って、無意識に小姓の手から槍を取っていた。