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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
――遁すな」
と槍を持った韋駄天の群れが集中して行った。
勝家を守って、一緒に奔っていた部将たちも、
「はや、これまで」
と一言の別れを投げては、勝家のそばを離れて、引っ返し、追い来る敵の猛烈な槍と槍の中に、敢えて、屍を横たえた。
毛受勝助も、いちどは身を翻して、尾撃の敵を邀えていたが、ふたたび主人の駒の後を追い、勝家のうしろから、なお叫んでいた。
「お馬印を、賜わりませ。――勝助に、下しおかれませ」
柳ヶ瀬の端れであった。
勝家は、寸間、馬をとめて、側らの者の手から、生涯の思い出多き――鬼柴田の名と共に今日まで陣営に掲げて来た――金箔捺しの御幣の馬簾を自身の手に取って、
「それよ、勝助。――侍中へ」
と、云いながら、颯ッと、後ろへ向って投げた。
勝助は、身をのめらして、鮮やかに、その柄を受けた。
勝助は歓喜した。一瞬、その馬簾を振りまわしつつ、主人勝家のうしろ姿へ、
「さらば、さらば。お館」
と、最後の声を送っていた。
勝家も、振り向いた。しかし馬は、柳ヶ瀬山地へ、駈けつづけてゆく。
そのとき、勝家の周りには、わずか十数騎しか見えなかった。
馬印は、勝助の乞いにより、勝助の手へ投げ与えられたものだが、その折、勝家のことばのうちに、――侍中へ。