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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
寧子と顔を見合わせて笑った。そして老母は、腰衣を折って採り蓄めた蕗のとうをのぞいて、
「寧子、幾つ見つけてぞ」
と、たずね、彼女が自分の腰衣のなかを数えて、
「七つ」
と、答えると、
「やはりそなたの方が多い。ばばの採ったのは五つしかない。一つにして持ってたも」
と、彼女の方へ移して、一つ腰衣のうちへ合わせた。
「オ。蕗のとうを」
「ようお探し遊ばしましたな。雪もあるのに」
侍女や家臣たちは、紙燭をよせて、近々とそれを覗き合った。まだ土ふかく秘められていた植物の淡い春の青さが、人の目に見られるのを羞恥むような形して、薄紅梅の腰衣にくるまれていた。珠のように持たれていた。
「まあ」
侍女たちは眼をみはった。――と、老母は、うしろに離れて佇立していた瀬尾金五郎という――いつも中門の守りをしている年若い侍をふりむいて、
「金五。――そなたの家の御病人は近頃どうじゃの。この寒さでは持病も募ろう。蕗のとうは、痰持ちには無二の薬と聞いておる。煮るなと、汁に入れるなとして喰べさせてあげたがよい」
と、いちど寧子の手にあずけた蕗のとうの幾つかを取って、懐紙につつみ、家に病父を抱えているその家臣へ頒けてやった。