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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens

Aozora Bunko

藤吉郎がひきうけている城壁の普請の方は、その晩が三日目だった。夜明けまでに竣工していなければ、信長はどう惜しんでも、また一名の惜しい家来につめ腹を切らせなければならなかった。

(あれも困り者ではある。よしないことを人前で云い張って――)

信長は、密かに、臍を噛んでいたのである。犬千代とか藤吉郎とかいう家来は、身分こそ軽いが、そしてまだ年こそ若いが、父信秀の代から仕えている重臣連のうちにも、少ない人材であることを彼はよく知っていた。――いやこの小さい織田の一家中ではなく、広い世間を見まわしてもざらにはない男どもであると、彼は自分の家臣を自惚れていたくらいなのである。

「……大きな損失だ」

無口にもならないではいられなかったのだ。しかし、それ程な嘆息は、老臣にも若い近侍にも聞かせなかった。

その夜は、早めに、彼は紙帳の裡へはいった。そして枕につきかけると、

「殿ッ」

寝所口に重臣の影がうずくまっていう。

「変事でござりまする。鳴海の山淵父子が、叛旗をひるがえし、物々しい防備と――熱田口からの早馬にござります」

「鳴海が……?」

信長は、紙帳を出て、白絹の寝衣すがたのまま、次の間へ移って坐った。