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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens

Aozora Bunko

「玄蕃か」

「はッ」

「はいれ」

廻廊をまわって、佐久間玄蕃は次の間の、すそへ来て平伏した。

信長は、団扇をつかっていた。もう夜は新秋の冷気さえ感じるのであったが、木立のふかい城内には、まだやぶ蚊が多いのであった。

「……めずらしくない!」

信長は噛んで吐き出すように、やがていった。

「山淵父子の謀叛なら、癒りかけた腫物が、また少し膿み出したまでのことじゃ。自然にふっきれるまで抛っておけ」

「御出馬は……?」

「無用じゃ」

「御軍勢も」

「膏薬にも及ぶまい。……はははは。防備はしても清洲へ襲せて来るほどな勇気もないであろう。右近のことから、左馬介があわてたまでのことよ。しばし足掻きを遠見しているがよい」

間もなく、再び信長は寝たが、朝の眼ざめは、常よりも早かった。

或いは、よく眠らずに、夜明けを待っていた程であったかもしれない。彼にとっては、鳴海の異変よりも、一藤吉郎の生命のほうが遥かに心配であったかも分らなかった。起き出るとすぐ、近侍を従えて、信長は自身、工事場へ検分にやって来た。

朝の太陽が昇りかけていた。ゆうべまで、戦場のようだったそこには、材木も石も土も、木の屑一つ散らかっていなかった。