Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens
(これが、恋というものか)
自分でも、ふと心づいて、この頃のあやしき心を顧みてみたが、恋と呟くと、何かふと、嫌な気もした。彼は、人がよく口にする、恋ということばが、嫌いだった。
なぜならば、彼は年少から、およそ恋ということばには、深い諦めを持っていた。
境遇も、容貌も、風采も、彼が持って世と闘って来たものは、世の美しい女性などから、あらゆる蔑みと、嘲侮とを、浴びせられて来た。
年少、彼にも、花を悲しんだり、月を傷む気もちは、多分にあった。
多感な血へ、そうしてうけつつ忍んで来た堪忍は、軽薄な美人や貴公子たちの想像も及ばないほど深刻な、忘れ難いものだった。
それにしても、彼も人間である。人と生れ、その嘲蔑を、受けてのみいて、思い知らしてやることを、諦め切っている者では決してない。
(いつかは)
と思い、
(今に。今に)
と、密かには、独りで誓っているのである。
容貌のまずい醜男にも、世の美姫たちが、いかに媚び、いかにひざまずいて、愛を求め争うかを、示してやる。――と思って、むしろそれは、自分を励ます鞭として、いつも心に帯びているのだ。
そういう気もちは、知らぬまに、彼にも彼の女性観や恋愛観を培っていた。