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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
Read 新版 放浪記 (しんぱん ほうろうき) by 林 芙美子 (はやしふみこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 247,330 characters · 497 screens
検査が済んだら、さきの事を考えるつもりだ」
汚ない池の水の上に、放った玉子のからがきらきら反射している。別に話もない。物憂そうな楽隊の音がしている。石道は昨日の雪どけでべとついている。寒い。カンノン様を拝んで仲店へ出る。ヨシツネさんがふっと小さい声で、
「俺のとこへ来ないか?」
と、云った。
「何処?」
「松葉町に、おふくろと二階借りしてるンだよ。おふくろはよその家へ手伝いに出掛けていまいない」
私はヨシツネさんがあんまり若いので行く気がしない。子供のくせにとおかしくてたまらない。
「どうだ?」と訊かれて、私は、「いやだわ」と云った。ヨシツネさんはまた歩き出す。私も歩く。只、寒いのでやりきれない。歩いているのは平気だけれど、私は恋をするなら、もう、心の重たくなるような男がいい。ヨシツネさんの二階借りに行く気はさらさらないのだ。
仲店で、ヨシツネさんはつまみ細工の小さい簪を一つ買ってくれた。一足さきに私は店へかえる。
まだ、通いの人達は来ていない。小さい簪が馬鹿に美しい。澄さんの鏡をかりて髪に差してみる。変りばえもしない顔だちだけれども、首の白いのが妙に哀れに思える。