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めいじびじんでん
新編 近代美人伝 (上)
長谷川 時雨
Read 新編 近代美人伝 (上) (めいじびじんでん) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,076 characters · 256 screens
今宵はじめて荷をせをふ、中々に重きものなり。
ともいい、日々の売上げ廿八、九銭よりよくて三十九銭と帳をつけ、五厘六厘の客ゆえ、百人あまりもくるため大多忙だと記したのを見れば、
なみ風のありもあらずも何かせん
一葉のふねのうきよなりけり
と感慨無量であった面影が彷彿と浮かんでくる。
三
廿七年二月のある日の午後に、本郷区真砂町卅二番地の、あぶみ坂上の、下宿屋の横を曲ったのは彼女であった。その路は馴染のある土地であった。菊坂の旧居は近かった。けれども其処を歩いていたのは、謹厳深い胸に問いつ答えつして、様々に思い悩んだ末に、天啓顕真術会本部を訪れようとしていたのであった。
黒塀の、欅の植込みのある、小道を入って、玄関に立った彼女は、その家の主、久佐賀先生というのは、何々道人とでもいうような人物と想像していたのであろう。秋月と仮名して取次ぎをたのんだ。
彼女は久佐賀某に面接したおり、
(逢見ればまた思ふやうの顔したる人ぞなき)
と、『つれづれ草』の中にある詞を思出しながら、四十ばかりの音声の静かにひくい小男に向合った。
鑑定局という十畳ばかりの室には、織物が敷詰められてあり、額は二ツ、その一つには静心館と書してあり、書棚、黒棚、ちがい棚などが目苦いまでに並べたててあり、床の間には二幅対の絹地の画、その