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しんていきららざか

新訂雲母阪

直木 三十五

Read 新訂雲母阪 (しんていきららざか) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,792 characters · 12 screens

Aozora Bunko

四

甚七は暫く飽気にとられていた。然し、そう云うと、自分の邸で斬合のあった時

「敵っ。」

というような言葉を夢中で聞いたが――

「それで万事判った。」

だが、もう敵で無いにしても、人一人殺している以上、矢張り日蔭者である。

「お俊さんは私が敵で無い事を信じていなさるか?」

「はい。」

左門へ嫁ぐ前、可成り親しかったお俊と甚七は、二人とも御互によく心を知合っていた。そして、嫁ぐ話のきまった時

「それでは、一生嫁をもちますまい。」

と、戯談半分に云っていたが、口へ出さないがお俊も、甚七を惜しくなくはなかったのである。

「明日は、弟達が参りますから、一時この場を――」

「然し、士として、この事情が判った上――」

「私の頼みを聞いて下さい――それは、本当の敵を探して下さること。」

こう云って金包を出した。

四

来馬は町人になって彦根へ入った。初めての変装に気がひけながら、馴染の料理屋ののれんをくゞった。そして

「お新は。」

と聞くと

「貴下に見せるものがあると云って狂人のように金の工面をし、こゝの借金を返したのが十日ばかり前、江戸へ行くと云って出ましたよ。」

そう聞くと、島田の辺で、夜中の流し三味線とその唄はお新によく似ていると、表の廊下へ出た事などが思出された。