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あねがわのかっせん
日本合戦譚
菊池 寛
Read 日本合戦譚 (あねがわのかっせん) by 菊池 寛 (きくちかん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 154,771 characters · 313 screens
二月十四日、乃木少佐は、小倉第十四連隊の一部隊を率いて、午前六時に折柄の風雪を冒して出発した。黒崎で昼食したが、ここからは靴を草鞋に代えて強行軍を続け、真暗になった午後六時に熊本に達する事が出来た。この強行軍の一部隊の如きは、疲労の為に車馬を雇わざるを得ない程であった。乃木は更に福岡の大隊を指揮する為に、熊本を去ったが、熊本から、直ちに入城すべしと云う急電を受けるや、すぐ引返した。二十二日午前六時南関を立って十一時高瀬で昼食したが、此時、少佐は軍医と計って、酢を暖めて足を痛めて居るものを洗わしめ、食後に酒を与えて意気を鼓舞した。午後一時茲を立って植木に向ったが、木葉駅に至る頃賊軍既に植木に入って居ると云う報を受けたので、十数騎を前駆させ斥候せしむるに、敵は既に大窪に退いたと云う。ここに於て、駅の西南に散兵を布いて形勢を窺う事にしたが、僅かに一個中隊の兵力であった。
日は既に暮れて、寒月が高く冴えて居る。白雪に埋った山野には、低く靄がかかって居て、遠く犬の声が聞える。淋しさと寒さとの中に斥候の報告を待って居る散兵線はにわかに附近の林中からの銃火を浴びた。