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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Read 日本婦道記 (にほんふどうき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,032 characters · 22 screens
一
一
「今日は、そんなものを着てゆくのか」
「はい」小間使の八重は、熨斗目麻裃を取り出していた。平三郎は、ぬうと立ったまま八重の手許を見まもる、彼にはなぜ礼服を着てゆくかがわからない。
「なにか今日は、式日だったのか」
「いいえ、お式日ではございません」
八重は礼服をきちんと揃える、それを脇へ直して扇筺を取る、蓋を開けてやはり式用の白扇を取り出し、それを礼服の上へ載せる。平三郎は八重のすばしこい手の動きを見ている。……少し寸の詰った、小さな、可愛い手である。然しその右手の小指の第二関節のところが、内側へ少し曲っているのが彼の眼を惹く。それは娘たちがなにか摘むときに小指だけ離して美しく曲げる、あの手の嬌態ほどの曲り方である。
「その指はどうかしたのか」
「どれでございますか」
「その右手の小指さ」
「まあ」八重は慌てたように、片方の手でその指を隠す、「……これは生れつきでございますの、いつぞや申し上げましたのに」
それから、揃えた礼服をひき寄せる。そこで平三郎はいま着たばかりの常着の、袴の紐を解こうとした。八重はおどろいて、それはその儘でよいこと、礼服は、挾箱へ入れて持ってゆくのだということを説明する。