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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
大安楽寺の門前までゆくと、文字焼やのおばさんと、ほおずきやの媼さんが声をかける。下足のお爺さんは、待っていたように援けおろしてくれる。本堂にはお説経の壇が出来て、赤地錦のきれが燦爛としている。広い場処に、定連の人たちがちらほらいて、低い声で読経していた。
祖母は広い廊下を通って、おさい銭函の横の一角の、参詣人が「お蝋燭」と階下から怒鳴ると、おーと返事をする坊さんたちの溜りの方へいった。そこには大きな角火鉢や、大きな鑵子があって世話人や、顔の売れた信者の、団欒する場処だった。
時々高野山から説教師が派出されてきた。その坊さんが若くて、学僧らしい顔付きをしていると人気があった。お婆さんたちがはしゃいだ声を出して御寄附の相談をする。麦酒なら水だから召上るだろうとか、白足袋を差上げようとか、褌におこまりだろうとか――すると、番僧が大火鉢で、肘まで赤いたこをこしらえて、ガンばってあたりながら、拙僧にもくれよとか、雑巾の寄附がすけなくなったのという。食物をつけとどける人も少くない、毎晩くる中にも、お茶菓子をかかさずもってくるので、火鉢の辺りは有福だった。
大店の内儀さんたちは嫁をそしる。