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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(一)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(一) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,540 characters · 319 screens
男は小作りで色のあさ黒い、額の狭い眉の濃い顔であった。
十右衛門に挨拶して、若い男は早々に出て行ってしまった。あれが先刻お話し申した千崎弥五郎の和吉ですと、十右衛門が云った。
衾を掻いやって蒲団の上に起き直ったお冬の顔は、半七がけさ逢った文字清の顔よりも更に蒼ざめて窶れていた。生きた幽霊のような彼女は、なにを聞いても要領を得るほどの捗々しい返事をしなかった。かれは恐ろしい其の夜の悪夢を呼び起すに堪えないように、唯さめざめと泣いているばかりであった。この二、三日の春めいた陽気にだまされて、どこかで籠の鶯が啼いているのも却って寂しい思いを誘われた。
お冬の胸に燃えていた恋の火は、灰となってもう頽れてしまったのかも知れない。彼女は過去の楽しい恋の記憶については、何も話そうとしなかった。しかし惨めな彼女の現在については、不十分ながらも半七の問いに対してきれぎれに答えた。旦那やおかみさんは自分に同情して、勿体ないほど優しくいたわってくださると彼女は語った。店の人達のうちでは和吉が一番親切で、けさから店の隙を見てもう二度も見舞に来てくれたと語った。
「じゃあ、今も見舞に来ていたんだね。