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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(一)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(一) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,540 characters · 319 screens
「まあ、仕方がない。ちっとの間、そうして置くが好い」
十右衛門は奥へはいって、主人夫婦と何か話していた。店のものは思い思いに自分の受け持ちの用向きに取りかかった。やがて小半時も経ったかと思うと、今まで眠っているように見せかけていた半七は、俄かに起き上がった。
「ああ、酔った。台所へ行って水でも飲んで来よう。なに、おかまいなさるな。わっしが自分で行きます」
半七は台所へ行かずにまっすぐに奥へまわった。中庭の縁からひらりと飛び降りて、大きい南天の葉の蔭に蛙のように腹這って隠れていた。それから少し間を置いて、和吉の姿がおなじくこの縁先にあらわれた。彼は抜き足をしながら四畳半の障子の前に忍び寄って、内の様子を窺っているらしかった。やがて彼がそっと障子をあけた時、南天の蔭から半七が顔を出した。
障子の内では男のうるんだ声がきこえた。その声があまりに低いので、半七にはよく聴き取れなかった。しまいには焦れったくなったので、彼はそろそろと隠れ場所から抜け出して、泥坊猫のように縁に這い上がった。
和吉の声はやはり低かった。しかも涙にふるえているらしかった。
「ねえ。今も云う通りのわけで、わたしは若旦那を殺した。