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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(一)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(一) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,540 characters · 319 screens
今ここに変なことが持ち上がってね」
男は顔をしかめて小声で云った。かれは下っ引の源次という桶職であった。
「この下っ引というのは、今でいう諜者のようなものです」と半七老人はここで註を入れてくれた。「つまり手先の下をはたらく人間で、表向きは魚やとか桶職とか、何かしら商売をもっていて、その商売のあいまに何か種をあげて来るんです。これは蔭の人間ですから決して捕物などには出ません。どこまでも堅気のつもりで澄ましているんです。岡っ引の下には手先がいる。手先の下には下っ引がいる。それがおたがいに糸を引いて、巧くやって行くことになっているんです。それでなけりゃあ罪人はなかなかあがりませんよ」
源次はこの近所に長く住んでいて、下っ引の仲間でも眼はしの利く方であった。それが変な事をいうので、半七も少しまじめになった。
「何だ。なにがあった」
「人が死んだんです。お化け師匠が死んだんです」
お化け師匠――こういう奇怪な綽名を取った本人は、水木歌女寿と呼ばれる踊りの師匠であった。歌女寿は自分の姪を幼いときから娘分に貰って、これに芸をみっちり仕込んで、歌女代と名乗らせて自分のあとを嗣がせるつもりであったが、その歌女代は去年の秋に十八歳で死んだ。