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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(一)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(一) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,540 characters · 319 screens
「蚊帳のなかを見ても宜しゅうございますか」
「どうぞお検めください」
半七の身分を知っている家主は異議なく承知した。半七は起って次の間へゆくと、ここは横六畳で、隅の壁添いに三尺の置床があって、帝釈様の古びた軸がかかっていた。蚊帳は六畳いっぱいに吊られていて、きのう今日はまだ残暑が強いせいであろう。歌女寿は蒲団の上に寝蓙を敷いて、うすい掻巻は裾の方に押しやられてあった。南向きに寝ている彼女は枕を横にはずして、蒲団から少し乗り出したようになって仰向けに横たわっていたが、その結び髪は掻きむしられたようにおどろに乱れて、額をしかめて、唇をゆがめて、白ちゃけた舌を吐いて、最期の苦悶の痕がその死に顔にありありと刻まれていた。寝衣は半分引きめくったように、肩から胸のあたりまで露出になって、男かと思われるような小さい乳房が薄赤く見えた。
「蛇はどうしました」と、源次もあとから来てそっと覗いた。
半七は蚊帳をまくってはいった。
「薄暗くっていけねえ。庭の雨戸を一枚あけてくれ」と、半七は云った。
源次が起って南向きの雨戸をあけると、もう六ツ(午前六時)すぎの朝の光りは、庭から一度にさっと流れ込んで、まだ新しい蚊帳の波をまっさおに照らした、死んだ女の顔はいよいよ蒼く映って物凄くみえた。