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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(一)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(一) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,540 characters · 319 screens
半七はただ笑って聴いていた。
「師匠の送葬はいつだ」
「あしたの明け六ツ半(午前七時)だそうです。別にこれという親類もないようですから、家主や近所の者が寄りあつまって何とか始末をするでしょうよ」と、源次は云った。
松吉の方からはその晩なんの消息もなかった。あくる朝、半七は師匠の送葬の様子を窺いながら妙信寺へ出かけてゆくと、師匠の遺骸は駕籠で送られて、町内の者や弟子たちが三四十人ほども付いて来た。その中には源次がいやに眼を光らせているのも見えた。経師職の息子の弥三郎が蒼い顔をしているのも見えた。女中のお村の小さい姿も見えた。半七は知らん顔をして隅に行儀よく坐っていた。
読経が終って、遺骸は更に焼き場へ送って行かれた。会葬者が思い思いに退散するうちに、半七はわざと後れて座を起った。そうして帰りぎわに墓場の方へそっと廻ってみると、一人の男がきのうの墓のまえに拝んでいる。それは経師職の息子に相違ないので、半七は草履の足音をぬすんで、そのうしろの大きい石塔のかげまで忍んで行って耳をすまして窺っていたが、弥三郎はなんにも云わずに唯一心に拝んでいた。やがて拝んでしまって一と足行きかけた時に、うしろの石塔のかげから顔を突き出した半七と彼は初めて眼を見合わせた。