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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(一)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(一) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,540 characters · 319 screens
このごろ不思議の多い自分の町内へ近づくにしたがって、若い娘の胸は動悸を打った。もっと早く帰ればよかったと悔みながら、お咲は俯向いて両袖をしっかりと抱きあわせて、小刻みに足を早めて歩いて来ると、うしろから同じく刻み足に尾けて来るような軽いひびきが微かにきこえた。お咲は水を浴びたようにぞっとしたが、とても振り返って見る勇気はないので、すくみ勝ちの足を急がせて、ようよう自分の町内の角を曲がったかと思うと、あたかも白い砂が渦をまいてお咲の足もとから胸のあたりまで舞いあがって来たので、彼女は両袖で思わず顔をおさえたその途端に、うしろから尾けて来たらしい怪しいものは、旋風のように駈け寄って来てお咲を突き飛ばした。
娘の悲鳴を聞きつけて、近所の者が駈け付けてみると、お咲は気を失って倒れていた。彼女の島田の髷はむごたらしくかきむしられていた。膝がしらを少し摺り剥いただけで、ほかに大した怪我もなかったが、あまりの驚愕にお咲は蘇生の後もぼんやりしていた。その晩から熱が出て、三日ばかり床に就いた。
妖怪か、人間かという議論がまた起った。鍛冶屋の権太郎が質屋の隣りの垣根へのぼったのを目撃したのはこのお咲で、それが彼女の口から世間へ洩れたのであるから、自身番でひどい目に逢わされた悪戯小僧は、その復讐のためにお咲のあとを尾けたので