Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
りゅうえいひろくかつえぐら
柳営秘録かつえ蔵
国枝 史郎
Read 柳営秘録かつえ蔵 (りゅうえいひろくかつえぐら) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,933 characters · 27 screens
その恐ろしい地獄の蔵へ、どうしてお杉は入れられたのだろう?
自分から進んで入ったのであった。
お杉は家斉へこう云った。
「まだ大奥へ参らない前から、妾には恋人がございました。今も妾は焦れて居ります。その方も焦れて居りましょう。……妾は死骸でございます。恋の死骸でございます。……不義の女と云われましても、妾には一言もございません。……どうぞかつえ蔵へお入れ下さい」
これは実に家斉にとって、恐ろしい程の苦痛であった。愛する女に恋人がある。そうして今も思い詰めている。自分からかつえ蔵へ入りたいと云う。……一体どうしたものだろう?
「しかし大奥へ入ってから、密夫をこしらえたというのではない。決して不義とは云われない。思い切ってくれ、その男を。……かつえ蔵へは入れることは出来ない」
将軍の威厳も振り棄てて、こう家斉は頼むように云った。
「思い詰めておるのでございます。昔も、今も、将来も。……」
これがお杉の返辞であった。
もうこうなっては仕方がなかった。かつえ蔵へ入れなければならなかった。
江戸城の奥庭林の中に、一宇の蔵が立っていた。黒塗りの壁に鉄の扉、餓鬼地獄のかつえ蔵であった。