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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
Read 桑の木物語 (くわのきものがたり) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 39,815 characters · 79 screens
九
――知らせを聞いて、夜も更けていたが、正篤が駆けつけて来たとき、すでに勘右衛門の息は絶えていた。
九
正篤はまっすぐに病間へとおり、扈従も遠ざけて、遺骸とさし向いで半刻あまりすごした。みんな遠慮をしろと云われ、家族も隣りの部屋へさがっていたが、正篤がしきりになにかかきくどき、ときには声を忍んで嗚咽するさまが、襖越しにいたましく聞えてきた。――正篤は遺族にはかくべつ言葉もかけず、とくに悠二郎など眼にもつかぬようすで、弔問が終るとさっさと帰ってしまった。
――殿はどうしたのだろう、おれを忘れてしまったのか、それともなにかごきげんを損じたか、やっぱり誰かの策謀だろうか。
彼はひじょうにじれ、気持のおちつく時がなかった。三度ばかり新泉を訪ねた、いちど殿におめどおりをしたい、うかがいたいことがある。ぜひとりなしを頼む。こう云って頭を下げて頼んだ、しかしそれはむだであった。
「殿は暫く待てと仰しゃる、いずれ沙汰しようから、それまで待つようにとの仰せだ」
新泉の言葉が信じられなくなり、原にも、そのほか側近の知る限りの者に頼んだ。しかしついには、「今後かような取次ぎはならぬ」