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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
Read 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 169,810 characters · 345 screens
高城の眼に涙が溜っているのをはっきり見たとき、先ず彼の胸にのぼって来たのは、一種のやり切れない感じであったのだ。(此の男はこれから先、暫くは俺の負担となるだろう)原隊から追手が来ないと判ったことは、不安が無くなったというよりむしろ拍子抜けの感じであった。実は先刻、彼を追って来るであろう追手として、彼は僚友の顔を一人一人思い浮べていたのである。自分がぎりぎりの場に立つその予感が、それで皆消えてしまった。彼は眼を見開くと無感動な顔付でしきりと四周を見廻した。道はわずか跡を示しながら密林の果てに消えている。
小屋の陰から高城が出て来た。宇治も物憂く立ち上った。立ち上りながら訊ねた。
「あの兵は何と言っていたのか」
高城は近づいて来たが、その歩き方や動作の中に、へんに突き当る硬いものを鋭く感じて、宇治は微かに身がまえた。高城の声は暗く押えた調子をふくんだ。
「もし、東海岸に行くのなら、自分も一緒に連れて行って呉れ、と言うのです」
聖地を慕う巡礼のように、皆ふしぎに東海岸に行きたがる。東海岸に行けば米も塩も魚も豊富にある。このことは原隊の間でも伝説のように兵等に信じられていたが、それは幾分誇大に伝わっているにせよ事実の筈であった。